
ドイツの映画はわりと好きなんですが、ナチ時代をテーマにしたものその後の東西分断時代のものも、テーマがテーマだけに後味が重いものが多い気がします。
でもこれは全然ちがいました。
残虐さはなく、それどころかコミカルなシーンが時々あります。背景は暗くても、その中でひときわ光るものにスポットを当てていて、後味いいです。
心地よい人間愛に酔いしれました。
アカデミー賞外国語映画賞をとるものって、時にアカデミー賞作品賞を取るものより感動したりします。(今回は特に!)
ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツが舞台です。秘密警察シュタージで働くヴィースラー大尉は、命令により脚本家のドライマンの盗聴を命じられる。
体制に疑問を感じることなく、くそ真面目だったヴィースラーが、最初はドライマンの恋人のクリスタに惹かれ、そして芸術や音楽、詩などに触れるうちにドライマンの自由な心を尊重したくなる・・・・
エレベーターに乗り合わせたボールを持った少年との小さい会話の中でも、次第に目覚めていくヴィースラーの心理が描かれます。
最初は体制を批判していると思われる親の名前を聞き出そうとしていたのに、ふと気が変わり、「そのボールの名前は?」って聞く変なおじさんになる。
この辺、上手ですね〜
体制に疑問を感じるものと、体制を守ろうとしながら悩むもの、相対する立場の二人の人間が、非常に厳しい環境の中ながら人間の尊厳を守ろうと、密やかに、しかし意思を持って動き始める。
静かな感動を味わいました。
人として生きていくのに何が大切なのか、寡黙なヴィースラーの瞳が語っていました。
人間から悪を引き出すのは何なのか。
そしてその人間を善に導くのは何なのか。
分かりきっていることなのに、時々思い出させてもらわないと、うっかり忘れて流されてしまうjesterであります。
人間性を抑圧するゆがんだ社会体制と、そんな中で殺伐としてしまう心に人間の尊厳を教える芸術というものの素晴らしさ。
私の隣にいらした白髪の男性も、しきりに目をぬぐってらっしゃいました。
赤いリボンのタイプライターを触ると、指に赤い粉がつき、それが紙についてしまう。
痛々しくも見える赤い指のあとが、触れ合うことのないはずの二人の心を通い合わせる・・・・


クリスタに、立場を超えて酒場で声をかけてしまうとき、そして彼女を尋問するときの、精一杯切ない愛を秘めた瞳。

う〜〜役者です!
2007年度、輝くおっさん大賞はこの人だ!!



同じドイツ映画で、jesterが大好きな「トンネル」(ドイツではテレビシリーズだったのを、日本では短縮され映画にして公開されました)では、主人公を演じるハイノー・フェルヒと一緒に西ドイツ側からトンネルを掘る仲間で、残してきた恋人カロラへの気持ちに苦悩する男、マチス・ヒラーを好演していましたが、今回は東独の体制下にあって、才能ある自由人を伸びやかに演じてます。
時々見せる少年のような表情、大人の色香、豊かな教養と、友人の名誉を惜しんで命をかけて体制を告発する勇気・・・
うひ〜〜 ドライマンにもやられました・・・


逆境の芸術家と、華々しい才能がない一般人のふれあい、という点では、これまたjesterが大好きなイタリア映画「イル・ポスティーノ」に通じるところがありました。
くしくも郵便配達、というところまで似ているわ〜
見終わったあと、誰かを(誰?)愛したい、芸術に触れたい、人生捨てたモンじゃないという気持ちにさせてくれる、完成度の高い秀作でございました。
公開が続いているうちに、何度か劇場で見たいです!
(しかしシネマライズはレディスディがないのよね〜)

またちょっと中断しますが、来週には帰ってきます。(今度は絶対!(殴)
