
「その1」を読むと、未見の方は「母子のお涙ちょうだいもの」みたいに感じられちゃうかもしれませんけれど、これは前半部分。
この映画、ここからがすごいんですよね。
深く傷つき悩むシュロモの周りの人々の、愛に満ちた、さりげない、また時には激しい言葉が、見ているものの心まで癒してくれます。
シュロモを取り巻く、養い親のヤエル、ヨラム。
そのおじいちゃん。義妹、義弟。
一緒に「モーセ作戦」でイスラエルに来たもう一人の父とも言うべきケス・アスーラ。
それから、シュロモがやけになったときに受け止めてくれた警官まで。
なんて賢く年を取った人たちなんでしょう。
彼らが「守るべきもの」を包み込む大きさに激しく心を動かされました。
世の中には、いやな思い、つらい経験をすると、心の殻を硬くしてガードし、「攻撃は最大の防御」と、人の痛みを分からずに攻撃して、あとは知らん顔するような人間がいます。
自分だけ幸せならいい、と傷ついたものに冷たい人たちも。
そういう人たちに不用意に近づいて痛い思いをすることも多々ありますよね。
シュロモもそんな現実に放り出されます。
でもそんな中でシュロモは、経験を前向きにとらえてしかもオープンハートで誠実に生きている大人たちと出会います。
それも想像を絶する悲惨な体験を乗り越えてきた人たちなのに・・・・
それだからこそ、彼らの言動は研ぎ澄まされて、何が一番大事かを学んだのでしょう。
だからこそ見ているものの心に響くのですよね。
・・・なんかこの人々の言葉を一つ一つ語っちゃいたくなったjesterですけれど、
まだ6月まで岩波ホールで公開が続く映画なので、未見の方も多いと思いますし、ちょっと控えようかなと思っています。
でも煌めく言葉の数々が、まだ耳に響いています。
どんな悲惨な境遇にいても、受け止めて理解してくれる大人がいれば、子供はまっすぐに育っていくものなんですね。
そう信じたいです。


血のつながりがなくても、実子と分け隔てなく、子どもと同じ目線に立って育てていくその姿は、子育てのお手本といえるのでは。
これからお母さんになる人にも見て欲しいなあ・・・・


目力のあるモシュくんの可愛らしさと切ない演技に目が潤みっぱなしでありました。


とくに青年シュロモを演じるシラク・M・サバハは美しい。
細くてスタイルが良くて、ミュージシャンみたい。しかも知的でドレッドヘアがこれほど芸術的に似合っちゃうのってすごい。
そして彼は映画中のシュロモと同じ境遇のエチオピア系ユダヤ人、リアル・ファラシャなんですよね。
数千キロの道を歩き、家族を失いながら「ソロモン作戦」でイスラエルに渡ったそうです。
確かにソロモンとシバの末裔のような高貴な面影です。こうした役者さんたちが、映画にリアリティを与えている気がします。


アルマンド・アマールが担当していますが、民族音楽の哀切を帯びた女性ボーカルや、それぞれの場面にあった音楽が映画を引き立ててました!
シュロモを囲む4人の母。(本当の母、脱出したとき手を引いてくれた母、養い母、そしてシュロモの子どもの母となる妻。)
女は強いです。
そしてそれを取り巻く男たちも、また熱いです。
重いテーマながら、笑えるようなシーンもところどころに光っていて、人間っていいな〜と思えるような、直球勝負だけど、後味の素晴らしい映画でした。
ああ、救われた・・・って思わせてくれました。
蛇足ですが、邦題「約束の旅路」なんですけれど、最後のシュロモの台詞などから取ったのかな〜と思いますけれど、微妙ですね。
原題の持つ強さが抜けちゃってる感じ。
英米での題は「Live and become 」
その他の国でも大体そんな感じで題がついているみたいです。
原題の「Va, vis et deviens」の「行け」という言葉が抜けているのが残念ですが(この言葉、シュロモの母たちが言う強い台詞で、とても大切だとjesterは思うのですが)・・・
少なくとも、邦題よりはずっといい感じだとおもいます。
しかし岩波ホール、いつもながらいい仕事してるなあ。
3月から6月までこれやってくれるんだもの。
いつ終わるかとはらはらしないで、また見にいける。
字幕はとっても読みづらかったけど、でも感謝。
ありがとう、岩波ホール。
ホールには鑑賞後用にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の募金箱までありました。(素直なので募金したjesterです)
あとはもうちょっと客席に傾斜が着いて、背もたれが高くなって、音響が良くなって、画面が大きくなってくれて、全席指定になってくれれば言うことないです。はい。