2007年06月13日

あるスキャンダルの覚え書き  NOTES ON A SCANDAL

知人で、テディベアのシールを貼った手帳を見せびらかして歩いている人がいました。

彼女は夫のある身でしたが、どうもその手帳は、隠さなくてはいけない関係の人(つまり妻子ある別の男性)との交流を記録したものらしく、それなのに、それをわざと皆に見えるように取り出して、思わせぶりに周りの人に見せていました。

日付に貼られた謎めいたシールを「それ何?」と聞かれると「秘密〜」といいながら、頬を染めて(40近い人です)その関係をほのめかすのです。

電話した時とか会った時とかでテディベアの色を変えたりしていることまでそれとなく言っていました。(金色のピカピカテディは何だったのか・・・怖いです)

その後、彼女の異常な行動が次第に発覚し、ストーカーまがいのことまでしているのが分って、周りの心ある人は次第に離れてしまいました・・・あせあせ(飛び散る汗)



さて、先日、好きな女優の一人であるケイト・ブランシェットと、気になるジュディ・デンチの共演ということで楽しみにしておりました
「NOTES ON A SCANDAL(あるスキャンダルの覚え書き)」
が公開になり、早速見てまいりました。


とても見ごたえのある映画でした!


ロンドンのある学校に赴任してくる美しい美術教師シーバにケイト・ブランシェット。
そして彼女に関心を抱く年輩の歴史の教師バーバラにジュディ・デンチ。

実際に起こった事件を基に原作が作られたらしいですが、深い人間観察にもとずく脚本の練りこみかたが尋常じゃなく、見る人を引きずりこみます。


容姿が美しいということのほかに、何の自信もなく、どう生きていいのか、模索しているシーバ。
大切なものはなんなのか、それをどう守ればいいのかもいまだ分からず、そんな自分を否定する母との軋轢を抱え、まるで優しかった亡き父を求めるように、年上の教師と結婚したシーバ。
(夫は、POCのタコ船長、ビル・ナイが珍しく普通の人の役です)


一方、長い孤独な生活から抜け出そうとして、
「一人で死ぬなんて寂しすぎる」
と人生の最後を共に過ごす相手を探しているバーバラ。



この二人の生き方をみて、『気持ち悪い』『愚かしい』『不気味』とだけ感じた人は、もしかしたら幸せなのではないかと思います。
きっとたくさんの愛情に包まれて、またはとても強い心で、いまだ孤独を知らずに生きている人ではないかと思うから・・・。



ぴかぴか(新しい)シーバを演じるケイト・ブランシェットは本当に綺麗。

まるでボッティッチェルリの『プリマベーラ』から抜け出た女神か、『ビーナスの誕生』で貝に乗っているビーナスのように、すらっとして透明な、無垢な美しさです。 

抜群のスタイルで、カジュアルなファッションも素敵だし、髪型も自然で可愛い。
(どうやったらあんなふうにふんわりと後れ毛までキュートにアップに出来るのか、とっても気になりました。ねじってるの? それでピンでとめて?・・・やっぱりブロンドじゃないとだめかな・・・)

その伸びやかな姿の魅力にあこがれて、友達になりたいと思う女性や、恋愛の対象と捉える男性が続出するのもうなずけます。

多分、支えてあげないと駄目そうな脆そうな外観と不確かな精神性が、心弱き者の相互依存への欲望を呼び起こすというのもあるのでしょう。

彼女が教え子との愛情関係に溺れていく気持ちも、わからないではない。
相手は15歳の少年ですから、「犯罪」ですが・・・・
(実際は精神的には少年のほうがシーバよりずっとすれて老獪だったりします。)

しかし行動にうつすどうかは別として、まぶしい若さを求める気持ちは、己の老いをふと感じる歳になったら、男女を問わずに多少あるもんじゃないでしょうか。パンチ

(もちろん、正常に成長している人は願望や妄想は持つことがあっても、実行にはうつさないのですが・・・)




ぴかぴか(新しい)対するバーバラ。

彼女が克明に綴るノートが、この映画の重要な要素のひとつなんですが、
「嬉しい日にノートに金の星のシールを貼る」
というところで、jesterは一番上に書いた知人を思い出して、鳥肌がたちました
バーバラに似てるんです、すごく。目つきとか、しゃべり方とか。

(とここでやっと前フリとつながりました・・・間が長すぎだよ、自分(汗))

(ちなみに、この映画の前売り券のおまけが「いいことがあったときに日記に貼る金の星のシール」だったんですよね・・・すごいセンスだ・・・・映画ちゃんと見たのか、スタッフ・・・)あせあせ(飛び散る汗)


それにしても、最初はバーバラの視点からのみ話が語られるので、彼女の異常さに観客が気がつくのは、中盤以降じわじわと、です。

一人で生きていくのは寂しくて、誰か寄りそって生きてくれる人が欲しくなり、パートナーを求める気持ちは、年を取っても人間の中には存在するとおもいます。

でも不幸にしてそういうパートナーを得られずに年とってしまったとき、または死に別れてしまったときなど、たいていの人は新たな相手を捜すのを年とともに諦めてしまうのかもしれません。

自分のエゴも強くなるし、また体力も気力も、人を引きよせる魅力すら次第に衰えていくのかもしれないし。
そして何とか孤独との付き合い方をおぼえて、自分をだましながら暮らしていく人もいるのかもしれない。
バーバラはそうではない、のですが。

もしかして男性が見たら、バーバラを気持ち悪いと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、バーバラを年輩の男性と置き換えたら、この話はどこにでも転がっている話ではありませんか。

若く美しい女性に、孤独な年輩の男性が引き寄せられるって、なんて「フーテンの寅さん」をはじめとして、「アメリカン・ビューティ」などなど、良くも悪くもよくある話です。

一般に女性でこういう話があまり聞かれないのは、男性に比べるとさほどエゴが強くないので、年取っても、仲良くなくても比較的簡単に群れることが出来るからなのかなあ。
群れるの好きな人多いしなあ。
子どもを生み育む性だから、強いって言うのもあるかも。(平均寿命長いし)


とにかく、バーバラは諦めていません。

それはまるで女子中学生のように、「親友の契り」を結んだら、「トイレも一緒ね」というほど親密に付き合う特別な相手が一人欲しいのです。
来年が定年、という歳になっても、です。

眺めのいいお気に入りの場所で、ベンチに座り込んで音楽を語りあい、何時間もおしゃべりし、恋の悩みも打ち明けあって、何でも分かりあい、自分の飼っているネコが死んだら、相手がどういう状況であろうとも、すぐにそばに来てもらって、ずっと一緒にいて慰めて欲しいのです。

とまあ、ここまでは単に寂しがり屋で依存心の強い人、ともいえるかもしれませんが、次第に、バーバラの求めるものは常識で言う『大人の友情』を大きく越えたものだと分かってきます。

幼い子どもが親や家族に求めるような関係。

本当は自分のことしか考えていない二人の弱い人間が、お互い相手にどっぷり寄りかかってやっと生きていく危うい相互依存。
(実は心の奥底で嫌悪しあっているかもしれないが、離れられず、表面上は仲の良い振りを続ける、というような・・・)

バーバラがシーバの手をとって、さするシーンがありましたが、性的な欲望を伴っているかどうかは分かりません。(映画の中ではそれを示唆するような視点のカメラワークがありましたが・・・)
でも独占欲は強く、普通なら異性に抱くような情緒の交換を求めているのは確か。

しかし・・・自分の中を見つめてみると、バーバラを簡単に否定できません。

いろいろなしがらみを背負った大人になったら、そんな関係は「相手に負担」「在り難い」「破綻は必至」と思いながらも、もし、万が一、ムーミンを書いたトーベ・ヤンソンのように、そんなことが出来たら、どんなに居心地がいいだろうとも思ってしまう自分がいます。
(・・・自分の中に残る幼児性を指摘されたような気がしました。そのみっともなさも含めて。)


ましてやバーバラの歳になるまで独身で、家族から離れて一人で暮らして、親密な人間関係に疎く成熟できないままプライド高く生活しているのなら、そういう関係を望んでしまう人もままいるかもしれない。

女性として、男性をひきつける魅力(=生殖能力?)はなくなってしまっていても、人間として、気の置けない同性の友人を持つことは出来るし、その友人と親密に寄りそって生きたいと願うことは、無謀とは思えません。

ただ、バーバラの場合は対象が美しい若い女性(=自分より弱い、自分が優位に立てる相手)に限られているようで、その辺から「異常性」が匂ってきます。
相手を束縛しようという欲求も強すぎる。
相手の弱みを握って「これで貸が作れた」なんて考え方も根本的に間違っている。(それじゃ友だちはできないよね・・・)

その上、所詮自分のことしか考えていないので、最後まで全然失敗から学ばないし・・・。


そして、後半では、その「異常」な探るような目つきや、執拗なストーカーまがいの行動が、シーバを追い詰めていく。


形は違うけれど、共に成長し切れてない、自己中な幼児性を抱えた二人の大人が、周りのものを巻き込んで繰り広げる悲劇が丁寧に語られていきます。


オスカーもとっていて演技力抜群の二人が、『生きていく孤独と、それゆえ普通の人でもちゃんと腰をすえていないと、いつか陥るかもしれない狂気と哀れ』を緊迫感を持って、見事に紡ぎだしていきます。

特にジュディ・デンチの演技は鬼気迫り、恐怖、そしてそれを通り越して哀れをさそうのでありました。
切ない胸のうちを黙して表現するのがうまい人です。



考え考え書いていたら、だらだらと文が長くなってしまい、短く編集する余力がないのでとりあえずこのままアップロードしますけれど、とにかくこの映画は、味わい深い、大人の楽しめる、重厚な作品でございました。黒ハート








posted by jester at 21:58| Comment(14) | TrackBack(5) | あ行の映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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