2007年10月23日

パンズ・ラビリンス (EL LABERINTO DEL FAUNO/PAN'S LABYRINTH)

逃避としてのファンタジーは誰しも覚えがあるもの。

特にこどもの頃は、とくに現実がつらいものでなくても、しょっちゅうトリップしてしまうものですよね。

古今東西の名作ファンタジーはストーリーそのものが「現実逃避」だったりします。
C.S.ルイスの「ナルニア」やミヒャエル・エンデの「はてしない物語」などなど、例を挙げると切りがないほど。

この「パンズ・ラビリンス」も夢ともうつつともつかない幻想の世界に行くことによって、つらい現実から逃避しようとする少女の話。

でも、現実は過酷であり、幻想もまるで悪夢の世界です。
ダーク・ファンタジーと言われる所以はこの辺にあります。

ストーリーはスペイン内戦で父を亡くし、冷酷な大尉と子をなし再婚した母と大尉のいる山にやってきたオフェリア(イバナ・バケロ)が、そこにあった昔の迷路の中に迷い込み、迷宮の番人、パンにあって、自分が属していたファンタジーの王国に戻るため、3つの試練を通過しようとする、というお話。


この現実が少女にとっては大変に過酷なもの。

ヘミングウェイの「誰が為に鐘は鳴る」の舞台にもなったスペイン内戦ですが、映画の中にはファンタジーと銘打つにはあまりに残酷なシーンがあります。

どの戦争でも残酷でない戦場などないのは分かっていますが、子供向けではないリアルさです。
舞台になっているのが1944年ということですから、フランコ将軍が勝利宣言をしたあとですね。
人民戦線の残党への激しい弾圧・拷問の様子が描かれます。
これが今でも続く憎しみの連鎖のテロ活動につながっていくのですね・・・


弾圧する側である、オフェリアの義父になった大尉は、豪胆で冷酷な性格の反面、音楽を愛し身の回りを几帳面に整える男。
その私生活をみていて、同じく綺麗好きでワグナー大好きだったアドルフ・ヒトラーを思い出した人は多いはず。

健康にいつも注意する几帳面な菜食主義者で、犬を熱烈に愛し、捨て犬を拾って育てたりしていた反面、狂気の独裁者であり、罪もない1,100万人以上の武器を持たぬ人々を虐殺したホロコーストを先導したヒトラー。

彼と比べれば大尉は小物かもしれないですが、人間的に一番大事な部分が欠如しているそのアンバランスな人格は、ヒトラーなど実際の迫害者をモデルにしていると思われました。
どこの地域でもこういうカリスマ性はあるが狂気を帯びた非人間的な人間が、その魅力と話術でものを深く考えのない人間たちを洗脳し、人々が盲目的に従ってしまうことから悲劇がはじまります。

彼が腕まくりをし、目を輝かせて行う拷問、通りすがりの村人を尋問するのに瓶で殴って殺してしまうシーンなど、目を背けたくなる場面が多々ありました。
しかし、父親の形見の時計を隠し持って、自分の死ぬ時を意識するなど、彼も単なる悪役で終わっていないところがすごい。


しかしその現実から逃避するためにオフェリアが構築したファンタジーも、かなりグロテスクです。

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ラビリンスの番人、パンは森にいる「牧羊神」ですが、その造形は怖い。
神というよりサタンのような、古代からの土着の迷信の神を思わせる姿です。

巨大ゴキブリみたいな虫がいっぱい這う木のうろにすんでいるガマガエルや、普段は目をはずしていて、エジキが来るとその目を手のひらに嵌めて追いかけるPale manなどは、まるで悪夢にでてくる常連さんって感じで、子供がみたら泣くでしょう。

食べちゃ駄目〜と思っているのに食べてしまう葡萄も、悪夢ならではですよね。

大人向けの、ホラーテイストの、といったらいいのか、冷や汗をかいて目覚める夢のような、甘さのないファンタジー世界は、また独創的な魅力もあります。
悪夢と言っても美しい悪夢。

ハリウッドで乱造されている「勇気と愛があふれた冒険ファンタジー」の物語ではありません。
見終わってほのぼのとか、すっきりと言うことはなく、見るものの精神状態が疲れていればいるほど、ド〜〜ンと重くのしかかる展開です。
残虐なシーンも過剰に思われるほどに繰り返し挿入されます。

しかし現実の持つ残酷さをリアルに描いた作品としては佳作だといえると思いました。


物語の中での救いは、スパイとして大尉の屋敷で働いている女性、メルセデスです。
反乱軍にいる弟と連絡を取りつつ、食料なども盗んでは渡しに行っているメルセデスは、オフィリアの面倒を見るうちに、この哀れな少女を愛し始めます。

メルセデスがエプロンのおなかの部分にナイフを隠すのをみて「転んだときとか、昼寝してるときにおなかに刺さらないのか」と不安になったjesterですが、このナイフがキーアイテムなのは、何回もアップになるのでわかります。
彼女には感情移入して、こぶしを握って応援してしまいました。

彼女の歌う「子守唄」も良かった。
「題名のない子守唄」のもそうでしたが、母の愛の代名詞のような「子守唄」を子供が求めるシーンではいつも涙をそそられてしまう・・・

また、ゲリラをかばってこれ以上拷問されないように殺害し、大尉の逆鱗に触れて凶弾に倒れる老医師も良かった。
こういう隠れたヒーローがたくさんいたのかもしれませんね。


虫がだめで、グロいのや流血シーン&ホラー映画が苦手なjesterですので、「どなたにもおすすめ!」とはいえないのですが・・・・、心に残る1本でございました。




posted by jester at 09:47| Comment(19) | TrackBack(11) | は行の映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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