生きる力さえなくしてしまうほどの闇。
それでも、人に希望はあるのだろうか。
わずかな支えを手に立ち上がり、
一歩一歩
この寂しく荒れた道をたどっていく。
そこにはなにかが
待っていてくれるのだろうか。
このところ、音楽がテーマになっている映画を何本か見ていますが、「4分間のピアニスト」は「Once ダブリンの街角で」に続いての佳作でした。
といっても「Once」のほうが貧しい普通の人たちの心の美しさを描いているのに対して、「4分間」のほうは、底辺の人たちの心の暗闇を描き、その微かな反映が真に価値あるものを輝かせるといった描きかたで、とても対照的。

囚人にピアノを教えるヴォランティアをしているクリューガー(モニカ・ブライブトロイ)は、ピアノのレッスンを希望しているジェニー(ハンナー・ヘルツシュプルング)と会うが、彼女の病的ともいえる暴力の発作に、冷たく部屋を離れる。
しかし歩き去ろうとするクリューガーの足を止めたのは、扉を閉じた部屋から流れてくる、ジェニーの弾くピアノの音だった・・・
精神的な疾患があるのでは?と思われるようなパニック発作を起こしたときのジェニーはまるで手負いの獣。
それと、彼女の紡ぎだす音楽の美しさはまるで別物のよう。
年のかけ離れた二人の無口な女が、音楽だけをその手段として危ういつながりを持つが、関係が深まるにつれお互いの傷口をこじ開けることになり、二人それぞれの悲しい過去が見えてくる・・・・
封印されていた過去の扉を開き、相手の心の琴線に触れるとき、その痛みを共感し、二人は次第にお互いを深く理解しあう。
暗い陰のなかで生きているような人々が登場するのに、見終わったあとは不思議な充実感があり、魂が美しい音楽で満たされたのを感じられます。
典雅なモーツアルトやベートーベン、シューベルトより、ジェニーの自己表現である、痛烈なこころの叫びのような演奏は、そういうものを「下劣な音楽」と言い放つクリューガーに受け止められるのか・・・
使われる音楽だけでなく、爆撃の音、ジェニーが机に刻んだ鍵盤をたたく音、サイレン、体育館のボールの音など、数々の音が、心に響く音として効果的に使われている。

オーデションで残った新人らしいけれど、すごい迫力でした。
薄い色の瞳を怒りでぎらぎらさせて、体中から立ちのぼる激しい敵意とともに、鍵盤にたたき出す「自分」の演技にしびれました。
しかし、骨太のいかにもドイツ人らしい体格で、この人に殴られたら痛いだろうな・・・(殴

寡黙で頑固で孤独な老女を見事に演じてました。
たまに「現代音楽」を聴きに行くと、正直jesterには理解不能で疲れることが多いのですが、ジェニーのコンサートは聞いてみたいです。
力あふれる4分間の演奏でした。