でもつくらなければ殺される・・・・
連合軍の解放が近づく収容所で、苦悩の中の命がけのドラマが展開する。
最後まで目が離せない展開と、深い人間観察に ☆☆☆3/4 でございました。

とはいえ、もうちょっとヒトラーが生きていたらイギリス経済は破綻していたかも、といわれる贋札事件、というぐらいの知識です。
後述しますが、最近ホロコーストものは避けたいような気分でして、『ヒトラーの贋札』も見たものかどうしようか迷ってました。
でも2008年アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされたので、見る気になりました。
外国語映画賞はjester的には結構当たりが多いのです。
(追記、結局本作が受賞しましたね! おめでとう〜〜!)

石がごろごろしている海岸に一人座る男。
切ないハーモニカ(アコーディオンかな?)のメロディ。
しっかり抱えた小ぶりのスーツケースには何が入っているのか。
男の背広の背中に残る、別の布を剥いだ後は何を物語るのか。
なかなかいい感じの出だしです。
チンピラの贋造屋の男、サリー(カール・マルコヴィックス)は、収容所でも上手に贋札を作り、死と恐怖の収容所の中でも特別待遇を得て、ふかふかのベッドで食事も与えられて、うまく生きぬこうとしている。
けれど、一緒に仕事をしている印刷技師アドルフ・ブルガー(この映画の元になった本の著者)の「贋札を上手く作れば、味方を殺すことになるから自分はしない」という信念にふれ、次第に考え方を変えていく。
とはいえ、期限を切って「真札と見分けのつかないものを作れ」「つくれないなら何人か殺すぞ」と迫ってくるナチと、あくまで印刷をサボタージュするブルガーの間に挟まれて、苦悩するサリーと仲間たち。
この辺、境遇は全く違うけれど、偽装の内部告発などで暴走する若者と管理職に挟まれた、中間管理職の苦悩に通じるものがあるかも・・・
強制収容所を舞台にホロコーストの新たな側面を描くというだけでなく、一般的に人間というもの、その心の奥にあるもの、そして真の勇気とは?と考えさせてくれる、地味だけれど深さを感じさせる真摯なつくりの佳作に仕上がっておりました。

ネオナチも存在しているし、ある程度国境を接する他の国に対する政治的思惑があるにしても・・・
それでも、恥ずかしくても暗部をさらすことによって過去から学び、これからに生かしていこうっていう気合を感じちゃいます。
日本ではつくられるとしても、若いタレントを使った「ああ特攻隊」みたいな美化されたものや、死んだ人に対する『お涙ちょうだい戦争映画』ばかりで、被害者意識ばかりが強く感じられるものが多い。
同じ頃日本は中国や朝鮮半島やアジアで何をしたのかとか、そもそも戦争の原因ななんだったのか、などからは今の日本人は全く目をそらしている気がします。
過去への反省の意をこめた映画はあまりつくられないし、つくられても話題にならず、見る人がいない国民性が恥ずかしく思えてしまう・・・

ヒトラーの贋札 悪魔の工房

真摯な書き方で、なかなか面白かったです。
(詳しいレビューはいずれゆきてかえりしひびのほうで・・・・)
ところで上にちょっと書いた「もうホロコースト関連の映画はいいかな」気分についてでございます。
しんどいものが見られない精神状況ということもあるのですが。
ブラックブック

前にも書いたことがありますが、もともと「アンネの日記」を読んだ少女時代から、とてもホロコーストが気になってました。
いろいろ文献も読んだし、アムステルダムのアンネの隠れ家まで行ってしまったこともあるぐらい、jesterのこだわってる『事実』なんです。
その他の『社会派映画』と呼ばれる映画もわりと見てきたと思ってます。
でもこういう題材のいくつかの映画の最近のもののなかで、歴史的な「ホロコースト」や、さらにいえば現代の「9−11」などの深刻な社会問題が、エンタテイメントの1要素として客集めとかワイドショー的な覗き見感覚で使われるような映画があり、こういうものはもうあまり見たくないな、なんて思ってます。
「ホテル・ルワンダ」や「ミュンヘン」など、たくさんの人が苦しんだ事実を真摯に伝えようとする映画なら気分が落ち込んでも見る価値があるなと思うのですが・・・
じゃあどれは良くてどれは駄目なのか、って自分に問うても簡単じゃないのけれど、とりあえず百歩譲ってたくさんの人に悲惨な事実を知ってほしいという製作側の意図からだとしても、全体的にエンタティメント系のつくりになっているものは、jesterは楽しめないし、見ていてつらくなるし、そういうのは個人的にもういいや、という感じです。
そういう風に使われるぐらい、時間が経ったってことなのかもしれませんが、そうも割り切れないので。
(何をくどくど言ってるのでしょう・・・(汗)すみましぇ〜〜ん

