彼女は夫のある身でしたが、どうもその手帳は、隠さなくてはいけない関係の人(つまり妻子ある別の男性)との交流を記録したものらしく、それなのに、それをわざと皆に見えるように取り出して、思わせぶりに周りの人に見せていました。
日付に貼られた謎めいたシールを「それ何?」と聞かれると「秘密〜」といいながら、頬を染めて(40近い人です)その関係をほのめかすのです。
電話した時とか会った時とかでテディベアの色を変えたりしていることまでそれとなく言っていました。(金色のピカピカテディは何だったのか・・・怖いです)
その後、彼女の異常な行動が次第に発覚し、ストーカーまがいのことまでしているのが分って、周りの心ある人は次第に離れてしまいました・・・

さて、先日、好きな女優の一人であるケイト・ブランシェットと、気になるジュディ・デンチの共演ということで楽しみにしておりました
「NOTES ON A SCANDAL(あるスキャンダルの覚え書き)」
が公開になり、早速見てまいりました。

とても見ごたえのある映画でした!
ロンドンのある学校に赴任してくる美しい美術教師シーバにケイト・ブランシェット。
そして彼女に関心を抱く年輩の歴史の教師バーバラにジュディ・デンチ。
実際に起こった事件を基に原作が作られたらしいですが、深い人間観察にもとずく脚本の練りこみかたが尋常じゃなく、見る人を引きずりこみます。
容姿が美しいということのほかに、何の自信もなく、どう生きていいのか、模索しているシーバ。
大切なものはなんなのか、それをどう守ればいいのかもいまだ分からず、そんな自分を否定する母との軋轢を抱え、まるで優しかった亡き父を求めるように、年上の教師と結婚したシーバ。
(夫は、POCのタコ船長、ビル・ナイが珍しく普通の人の役です)
一方、長い孤独な生活から抜け出そうとして、
「一人で死ぬなんて寂しすぎる」
と人生の最後を共に過ごす相手を探しているバーバラ。
この二人の生き方をみて、『気持ち悪い』『愚かしい』『不気味』とだけ感じた人は、もしかしたら幸せなのではないかと思います。
きっとたくさんの愛情に包まれて、またはとても強い心で、いまだ孤独を知らずに生きている人ではないかと思うから・・・。

まるでボッティッチェルリの『プリマベーラ』から抜け出た女神か、『ビーナスの誕生』で貝に乗っているビーナスのように、すらっとして透明な、無垢な美しさです。
抜群のスタイルで、カジュアルなファッションも素敵だし、髪型も自然で可愛い。
(どうやったらあんなふうにふんわりと後れ毛までキュートにアップに出来るのか、とっても気になりました。ねじってるの? それでピンでとめて?・・・やっぱりブロンドじゃないとだめかな・・・)
その伸びやかな姿の魅力にあこがれて、友達になりたいと思う女性や、恋愛の対象と捉える男性が続出するのもうなずけます。
多分、支えてあげないと駄目そうな脆そうな外観と不確かな精神性が、心弱き者の相互依存への欲望を呼び起こすというのもあるのでしょう。
彼女が教え子との愛情関係に溺れていく気持ちも、わからないではない。
相手は15歳の少年ですから、「犯罪」ですが・・・・
(実際は精神的には少年のほうがシーバよりずっとすれて老獪だったりします。)
しかし行動にうつすどうかは別として、まぶしい若さを求める気持ちは、己の老いをふと感じる歳になったら、男女を問わずに多少あるもんじゃないでしょうか。

(もちろん、正常に成長している人は願望や妄想は持つことがあっても、実行にはうつさないのですが・・・)

彼女が克明に綴るノートが、この映画の重要な要素のひとつなんですが、
「嬉しい日にノートに金の星のシールを貼る」
というところで、jesterは一番上に書いた知人を思い出して、鳥肌がたちました。
バーバラに似てるんです、すごく。目つきとか、しゃべり方とか。
(とここでやっと前フリとつながりました・・・間が長すぎだよ、自分(汗))
(ちなみに、この映画の前売り券のおまけが「いいことがあったときに日記に貼る金の星のシール」だったんですよね・・・すごいセンスだ・・・・映画ちゃんと見たのか、スタッフ・・・)

それにしても、最初はバーバラの視点からのみ話が語られるので、彼女の異常さに観客が気がつくのは、中盤以降じわじわと、です。
一人で生きていくのは寂しくて、誰か寄りそって生きてくれる人が欲しくなり、パートナーを求める気持ちは、年を取っても人間の中には存在するとおもいます。
でも不幸にしてそういうパートナーを得られずに年とってしまったとき、または死に別れてしまったときなど、たいていの人は新たな相手を捜すのを年とともに諦めてしまうのかもしれません。
自分のエゴも強くなるし、また体力も気力も、人を引きよせる魅力すら次第に衰えていくのかもしれないし。
そして何とか孤独との付き合い方をおぼえて、自分をだましながら暮らしていく人もいるのかもしれない。
バーバラはそうではない、のですが。
もしかして男性が見たら、バーバラを気持ち悪いと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、バーバラを年輩の男性と置き換えたら、この話はどこにでも転がっている話ではありませんか。
若く美しい女性に、孤独な年輩の男性が引き寄せられるって、なんて「フーテンの寅さん」をはじめとして、「アメリカン・ビューティ」などなど、良くも悪くもよくある話です。
一般に女性でこういう話があまり聞かれないのは、男性に比べるとさほどエゴが強くないので、年取っても、仲良くなくても比較的簡単に群れることが出来るからなのかなあ。
群れるの好きな人多いしなあ。
子どもを生み育む性だから、強いって言うのもあるかも。(平均寿命長いし)
とにかく、バーバラは諦めていません。
それはまるで女子中学生のように、「親友の契り」を結んだら、「トイレも一緒ね」というほど親密に付き合う特別な相手が一人欲しいのです。
来年が定年、という歳になっても、です。
眺めのいいお気に入りの場所で、ベンチに座り込んで音楽を語りあい、何時間もおしゃべりし、恋の悩みも打ち明けあって、何でも分かりあい、自分の飼っているネコが死んだら、相手がどういう状況であろうとも、すぐにそばに来てもらって、ずっと一緒にいて慰めて欲しいのです。
とまあ、ここまでは単に寂しがり屋で依存心の強い人、ともいえるかもしれませんが、次第に、バーバラの求めるものは常識で言う『大人の友情』を大きく越えたものだと分かってきます。
幼い子どもが親や家族に求めるような関係。
本当は自分のことしか考えていない二人の弱い人間が、お互い相手にどっぷり寄りかかってやっと生きていく危うい相互依存。
(実は心の奥底で嫌悪しあっているかもしれないが、離れられず、表面上は仲の良い振りを続ける、というような・・・)
バーバラがシーバの手をとって、さするシーンがありましたが、性的な欲望を伴っているかどうかは分かりません。(映画の中ではそれを示唆するような視点のカメラワークがありましたが・・・)
でも独占欲は強く、普通なら異性に抱くような情緒の交換を求めているのは確か。
しかし・・・自分の中を見つめてみると、バーバラを簡単に否定できません。
いろいろなしがらみを背負った大人になったら、そんな関係は「相手に負担」「在り難い」「破綻は必至」と思いながらも、もし、万が一、ムーミンを書いたトーベ・ヤンソンのように、そんなことが出来たら、どんなに居心地がいいだろうとも思ってしまう自分がいます。
(・・・自分の中に残る幼児性を指摘されたような気がしました。そのみっともなさも含めて。)
ましてやバーバラの歳になるまで独身で、家族から離れて一人で暮らして、親密な人間関係に疎く成熟できないままプライド高く生活しているのなら、そういう関係を望んでしまう人もままいるかもしれない。
女性として、男性をひきつける魅力(=生殖能力?)はなくなってしまっていても、人間として、気の置けない同性の友人を持つことは出来るし、その友人と親密に寄りそって生きたいと願うことは、無謀とは思えません。
ただ、バーバラの場合は対象が美しい若い女性(=自分より弱い、自分が優位に立てる相手)に限られているようで、その辺から「異常性」が匂ってきます。
相手を束縛しようという欲求も強すぎる。
相手の弱みを握って「これで貸が作れた」なんて考え方も根本的に間違っている。(それじゃ友だちはできないよね・・・)
その上、所詮自分のことしか考えていないので、最後まで全然失敗から学ばないし・・・。
そして、後半では、その「異常」な探るような目つきや、執拗なストーカーまがいの行動が、シーバを追い詰めていく。
形は違うけれど、共に成長し切れてない、自己中な幼児性を抱えた二人の大人が、周りのものを巻き込んで繰り広げる悲劇が丁寧に語られていきます。
オスカーもとっていて演技力抜群の二人が、『生きていく孤独と、それゆえ普通の人でもちゃんと腰をすえていないと、いつか陥るかもしれない狂気と哀れ』を緊迫感を持って、見事に紡ぎだしていきます。
特にジュディ・デンチの演技は鬼気迫り、恐怖、そしてそれを通り越して哀れをさそうのでありました。
切ない胸のうちを黙して表現するのがうまい人です。
考え考え書いていたら、だらだらと文が長くなってしまい、短く編集する余力がないのでとりあえずこのままアップロードしますけれど、とにかくこの映画は、味わい深い、大人の楽しめる、重厚な作品でございました。

いやー、その人、怖いって言うか気持ち悪いですね。一応秘密は秘密なんでしょうけれど、人が突っ込んでくれるのを待ってたんでしょうねぇ。
映画の方はほんとにどっちもどっちで、どっちにも共感はできないんですが、バーバラって人は、ここまでひどくはなくてもあ〜いるいる、って感じではありますね。
>形は違うけれど、共に成長し切れてない、自己中な幼児性を抱えた二人の大人
お見事な表現!
まさにこの作品をうまくまとめた表現だと思います。
nouilles-sauteesさんのところでレビューを斜め読み(相変わらずネタばれ避けてます。これからちゃんと読みにうかがいます!)して、ずっと楽しみにしてたのが、やっと公開になりました。
私はシーバもバーバラも、ある部分心の中にいるかもしれない、と思いました。
自分は違うわと思いながらも、いつでてくるか分らないな〜と。
>その人、怖いって言うか気持ち悪いですね。
実はすごく気持ち悪い人だったんです。しかもバーバラに似てました。ジュディ・デンチの演技力、すごいと思いました。
知人のその後は全く分りませんが・・・
テディベアのお友達・・・そういう人がまま居ることわかります。いました、それに近い人が。ものすごく自己愛の強い人でした。
リアクションに困るような言動で周囲の人間をオタつかせ、でも本人はそれがとっても気持ち良さそうなの。
彼女の頭の中でだけ、他の人には見えない色鮮やかな彼女が主役の物語があるみたいでした。
jesterさんの文章を読んでいて、シーバもバーバラも自分の中に確かに居るような気がしてきました。
たまたま今は、幸運にも人との縁に恵まれたり気を紛らわす術を持ってるけど・・・
jesterさんのおっしゃる通り「いつ出てくるか分からないな〜」です!
そういう強い感情を妄想に止められずに行動にまで進む人って、持っているエネルギーが半端じゃなく強いんでしょうね。
それにしてもjesterさんの映画レビューは本当にオモシロイ!
映画を見た後で読んだらもっと「うん、うん・・!!」と、いっぱいうなずけるんだろうな〜♪
怖いけど見たい。ジュディ・デンチ〜〜!!
(ケイトの美しさも見たいけど怖さ優先か〜〜?!・・・・)
暖かいコメント、ありがとうございます。
デンチ演じるバーバラのエネルギーはすごいですよ〜
>彼女の頭の中でだけ、他の人には見えない色鮮やかな彼女が主役の物語があるみたいでした。
ああ〜、その人もそういう感じでしたね、確かに。On stageという感じでした。
>映画を見た後で読んだらもっと「うん、うん・・!!」と、いっぱいうなずけるんだろうな
私もiguさんの感想が聞きたいな〜 ご覧になったらまたおしゃべりしましょう♪
どうも見てすぐにはレビューが書けないことが多いです。すぐ書くときはそれほど考えなくてもいい映画だったりするときも。
しかし書いているうちによくわからなくなってきて、消してしまうことも・・・(爆)
まあ、見ても、細かいところをすぐに忘れてしまったりするので、防忘録として書いているようなものですが、お言葉、とっても嬉しかったです!
時々「長い時間をかけて何のために書いているのだ?」と思ったりするので、お言葉、とっても励みになりました。
ありがとうございました♪
レビューじゃなく単なるコメントでも同じ状態になったりします〜!
特に自分も大好きな俳優さんのことをjesterさんが書かれている時など・・・思いがつのり過ぎる?とダメですね〜。書けなくなります。
コメントを書いては消しを繰り返したあげく、わけわかんなくなって諦めました・・・わはは・・♪!
実は香川さんの時がそうでした。jesterさんのレビューを何度もフムフムと読んで、すっごく興味があったのですが、コメントしそびれました。
私も香川照之さんの演技が好きです。でも「鬼が来た!」は見ていません〜。でも彼の本は読んでみたいです〜
うわ〜〜ぜひそのコメント読みたかったですよ! 復活してくださいよ〜〜!(くねくね)
ここには書いていませんが、最近彼の出ている映画も良く見ております。ちょい役でいろんな日本映画に出ているんですが、とってもいい味が出てるんですよね。
jesterは知識がないので、変なことかいてるかもです。猿之助のこととか・・・。
どうぞいろいろ教えてくださいませ。
>でも彼の本は読んでみたいです〜
じゃあ、「中国魅録」はお勧めです♪
そのうち「日本魅録」のレビューも書きたいと思ってます。
こちらは日本映画について、俳優さんのことがいろいろ書いてあるのですけれど。
その時にでもぜひお願いいたします♪
面白そうですね。これは是非観にいかなくては。漠然と「噂の二人」に似ているのかと思っていましたが、全くの別物ですね。心の準備をして行こう!!
>(ちなみに、この映画の前売り券のおまけが「いいことがあったときに日記に貼る金の星のシール」だったんですよね・・・すごいセンスだ・・・・映画ちゃんと見たのか、スタッフ・・・)
そうなのです。「ナイロビの蜂」の時には「ナイロビの蜂」⇒蜂みっつ⇒蜂蜜石鹸 だった。何考えてるんだか。
コメントありがとうございます。
なかなか見ごたえのあるお話でしたよ〜
>「ナイロビの蜂」の時には「ナイロビの蜂」⇒蜂みっつ⇒蜂蜜石鹸
ああ〜〜!そうでしたね! あの映画は「ナイロビの蜂」という邦題からしてアウトなのに、その上!という感じでした。
しかし、星のシールは「ちょっとほしいかも」と思ったんですよ、映画を見る前は。(爆)
でも実物を見て、「これなら、別にシールを買ったほうがいいかな」と思って前売りを買うのやめたんですよね。(前売りかってなくすというのが続いたので、最近前売りを買いません。)
でも「嬉しいことがあった日にシールを貼る」って、ぱっと見たとき「ああ、こんなに嬉しいことがあったんだ」って確認できて良さそうかも、と思いました。(あくまで映画を見る前)
しかし「・・・最近シールが全然ない・・・」というのも悲しいかも・・・と思ってやめましたが。(爆)
TB&コメントありがとうございました!反応が遅れてゴメンなさいぃー
凄い作品でしたねーっ この作品は、特に女性の方の感想が聞いてみたいなぁとひっそり楽しみにしていましたよ。
そ、それで、jesterさんの記事は、とても読み応えがありましたよ。見終わってから何日か経っているのに、また気がつかなかった部分で色々と考えてしまいましたわ。DVD化したら、もう1度ジックリと見直してみたい気がしてきました。
知人さんのお話。怖いなぁ(苦笑)
まるで、シーバとバーバラを足して2で割っ人みたいぢゃないですかー むーん・・・
この映画は、やっぱりリアルな恐怖がヒタヒタと・・っていう感じの作品なのかもと鳥肌が立ってしまいましたわ。
TB&コメントありがとうございます。
見終わったあと・・・とくにラストのバーバラを見て、絶望に近いようなすくわれない気持ちになりましたが、また考えていると、バーバラが哀れでなりません。
あの年で、あの性格だったら、ああいう風にしか生きられないかもしれないです。それを否定できないんですよ・・・
明日はわが身かもしれないもん。
またDVDになったら繰り返して見たいですよね!
それにしもjesterさんの記事さすがです。
読んでて、フムフムとうなずくばかりです。
それにしてもその知人の方、興味深いですね・・・もちろん深く関わりたくないタイプの方ですけど。
害の及ばん範囲から、遠目から眺める分にはオモシロそう・・・。
しかし、前売りのおまけが「金の星のシール」ってのはかなりシュールなウケ狙いっぽいですね。(笑)
ウケ狙いじゃなかったら、ちょいコワいです・・・。
ふむふむとうなずいていただいて、嬉しいです。
私もこの作品、好きです〜
二人とも極端だけど、でもその子供っぽさ、自分の中にもあるかも、って思いましたし・・・
>それにしてもその知人の方、興味深いですね・・・もちろん深く関わりたくないタイプの方ですけど。
こういうひとって、世の中には結構いるんですよ。
とーるさん、お気をつけくださいね。(なにをだ??)
質が良い、と感じました。
それはやはりjesterさんも書いてらっしゃるように、練られた脚本だったからというのも大きいですよね。
バーバラに関しては、気持ちわかるという部分もありましたが、やはり不気味だ、恐い、と
思ってしまったので、私は幸せなのかも(^^ゞ
でも、反対にシーバの気持ちのある部分はわかるぞ、と思っちゃった(^^;;)
まぁ”あんなこと”には絶対になりませんが(って、誘われないって!(^^;;) )、頑張って子育てしてきて、ふとまだ自分はなにかやり足りないんじゃ・・・と思ってしまう気持ちの部分とか。
でも、やっぱり家族は大切でかけがえのないものだって、大きな代償を払ってわかるところとか、なんだか共感できました。
それにしても主演の2人はさすがの演技でしたよね〜。
TB&コメント、どうもありがとうございましたm(_ _)m
TB&コメントありがとうございます。
>質が良い、と感じました。
本当にそうですね〜
バーバラは気持ち悪いのですが、なんか哀れで。。。
脚本には感心しました。
>でも、反対にシーバの気持ちのある部分はわかるぞ、と思っちゃった(^^;;)
ええ、ええ!
シーバの気持ちは当然でしょう。
誰だってああいう気持ちはありますよ。
ま、私は子供は相手にしませんが(あくまでおっさん好みなので)気持ちはわかります。