2007年11月15日

僕のピアノコンチェルト VITUS

『山の焚火』は1985年公開ですから、今から20年以上前の映画ですが、難解な映画ではあるけれど、とても印象深く、たくさんの静謐で美しいシーンが記憶に残っています。

蜂の羽音しかしない静かな山の中の、姉と弟が暮らす小屋で聞こえる掛け時計の秒針の音。
不気味な雪崩の前の地響き。
並べられて置いてある両親の遺骸など。
一度映画館で見ただけなのに、これほど印象に残る映画も珍しいかもしれません。


なので、そのフレディ・M・ムーラー監督が撮った「Vitus(僕のピアノコンチェルト)」はすごく期待しておりました。

vitus.jpgストーリーは素晴らしいピアノの才能を持ち、その上IQ180という頭脳をもつ少年が、それゆえ周りになじめず苦しむけれど、理解ある祖父に助けられながら成長していく、というもの。

前半、天才児の才能を伸ばそうと頑張る両親と、心は子供のままでありながらあふれる知能を抑えきれないヴィトスの葛藤は、子供のほうの期待される事に押しつぶされそうな気持ちも分かり、親のいらだつ気持ちもよく描けていて、双方に同情しながらも笑ってしまう、微笑ましいものでした。

しかし、心はまだまだ子供ながら知能は高く、高すぎて学校で浮いてしまうヴィトス。

中盤では飛び級して進学したものの周囲との距離のとり方もわからず、年上の高校生とも教師ともうまく行かず、ヴィトスはどんどん追い詰められていきます。
この辺の展開はとても上手でした。

けれども後半では、ヴィトスが普通児を装いながら、陰でネットによる株の売り買いを始め、
「将来のCEOの息子や父親がそれってインサイダー取引にひっかからんかい?・・・犯罪だよ???」
とちょっと疑問が浮かぶ展開になってしまいました・・・

いっくら天才児でも、祖父の名前を借りたとしても、12歳の子がオフィスを構え、自家用飛行機が買えるほどお金を儲け、しまいには・・・・
という展開はあまりに現実離れしすぎておりますので・・・

そのへんの脚本はちと甘い作りだなと思うのですが、それでも最後まで見てしまうのは、12歳の少年になってからのヴィトスを演じるテオ・ゲオルギューの天才ピアニストぶり

リストのハンガリー狂詩曲第6番を激しく弾くかと思えば、「ロシアのピアニストの真似」といって、粘ばりたっぷりのしぐさで弾いて見せたり、悲しみをこめて、モーツアルトのレクイエムの「ラクリモーサ」を弾いたり、その演奏があまりに素晴らしく、それだけでも見る価値があるというもの。

ピアノ教師に「ここはこう弾いてごらん」といわれても
「いや。退屈だから」
と自信たっぷりに言い放つ彼に、天才とは彼の如し、とうなずかされます。


vitus2.jpgもっと幼い頃のヴィトス役の少年もすごく愛くるしく、パーティで何か弾けと親に言われ、わざとたどたどしく「ちょうちょ」を弾いて見せ、親の鼻をつぶしたところで突然シューマンの『勇敢な騎手』を弾き飛ばすところなんか、とても面白かったです。

こうもりの羽をつけてよろよろ歩くところなんか、天使でした!


vitus3.jpg自分の才能をもてあまし、「普通の子になりたい」と悩むヴィトスを優しく受容してくれる祖父に、『ヒトラー 〜最期の12日間〜』のブルーノ・ガンツ。
自身も子供のような純粋な部分を持つおじいちゃんは、ヴィトスの唯一の味方。
彼が画面に出てくるだけで、ほっとさせられます。
こんな歳のとり方がしたいものです。

おじいちゃんがヴィトスに作ってくれるパスタがおいしそうでした♪

美しい自然の中での散歩のシーンなどはあったものの、そのほかにはスイスらしい風景はあまりなかったけれど、日常会話でドイツ語に英語が当然のように混じり、イタリア語とかフランス語もぽつぽつと入って、子供と母親、祖父までが普通に会話しているところが、やっぱりスイスだな〜という感じです。


そして最後、ヴィトスのシューマンのコンチェルト第3楽章の演奏。
まさに天才というしかない演奏ぶりです。

コンチェルトのソロ奏者とはいえ、オーケストラと音を合わせ、心を合わせてハーモニー(調和)し、一つの作品を作り上げていく、という共同作業が出来るほど、彼は成長したということなのでしょう。

(最近のインタビューの映像など見ると、テオ・ゲオルギューはもう少年とはいえないほど大きくなっちゃってますけれど)


というわけで、「山の焚き火」のような芸術作品を期待していくと期待はずれで肩透かしを食いますが、あれから20数年経って、フレディ・M・ムーラー監督の人間へのまなざしがずいぶん優しくなったなあ〜、と感傷にふけってしまったjesterでございました。



posted by jester at 14:52| Comment(8) | TrackBack(8) | は行の映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
遅まきながらも、私も11/24見てきました。
親子の愛もテーマにしたり、

"楽しいもの”で”オンワカ”で、見ていて
とても”幸せ”な気分になれました。

映画中ので出てきたもので
 ・ピアノは、YAMAHA
 ・ビデオカメラはSONY製でしたね
日本製も、”なかなかやるな”と感じました。
Posted by たーさん元気 at 2007年11月24日 23:32
たーさん元気さん、コメントありがとうございます!うれしいです♪

>"楽しいもの”で”オンワカ”で、見ていてとても”幸せ”な気分になれました。

こういう気持ちのほぐれるような映画もいいですよね♪

>日本製も、”なかなかやるな”と感じました。

日本製は世界どこへいってもありますね〜

「たーさん元気」っておもしろいHNですね!
「たーさん」というHNの友人がいるので、ちょっとビックリしました。
これからもよろしくお願いいたします。
Posted by jester at 2007年11月25日 08:05
こんばんは、jesterさん★
この監督さんの前の作品をご覧になったことがおありなのですね。

この物語は確かに最後の後半部分が甘いのかもしれませんが、私にはとっても気持ちがあったかくなれて、すごく好きな部分でした。
天才っぷりをこうして使うというのは、現実的ではないかもしれませんが・・・
前半の現実世界の重苦しさが飛んでいくようで、後半の天才の飛翔が頼もしく思えてしまいました♪
Posted by とらねこ at 2007年11月28日 00:28
jesterさん、こんばんは。
『山の焚火』をご覧になっていたのですね。
私はわりと近年、98年作品の『最後通告』を観たのですが、同じく不思議にシュールで難解テイストでした。
今作の風合いの違いにビックリ。
株で大もうけのエピソードは私もちょっと引っかかったのですが、ひょっとしてスイスと、日本や英米とでは、金融関係のものに対するとらえ方が違うのかもとも思ったりしました。
日本の感覚よりも純粋に、ピュアなサクセスとして受け止められるものなのかなぁと??
とあれこれ考えさせられつつも、楽しくて感動いっぱいのステキな映画だったと思います♪



Posted by at 2007年11月28日 01:56
とらねこさん、コメントありがとうございます!うれしいです♪

>この監督さんの前の作品をご覧になったことがおありなのですね。

そうなんですよ。結構印象に残っております。とてもシュールな映画だったので、そういう部分が少なからずあるのかと思っていました。

>前半の現実世界の重苦しさが飛んでいくようで、後半の天才の飛翔が頼もしく思えてしまいました♪

確かに、最後は明るくて、そういう点では監督が意図していたことが、それを求めていた観客に伝わった感じがします。
最後の演奏シーンはまさに「天才の飛翔」でしたね〜
Posted by jester at 2007年11月28日 07:35
ええと、無記名なのですが、たぶんあの方かな?とおもいつつレスいたします。

>私はわりと近年、98年作品の『最後通告』を観たのですが、同じく不思議にシュールで難解テイストでした。

そうなんですよ〜
山の焚き火もかなりシュールで何回でした。なので、「子供を扱っていてもまたシュールなのかな」と期待していたわけでして・・

>今作の風合いの違いにビックリ。
株で大もうけのエピソードは私もちょっと引っかかったのですが、ひょっとしてスイスと、日本や英米とでは、金融関係のものに対するとらえ方が違うのかもとも思ったりしました。

株のエピソードは結構真剣に家族ではなしちゃいましたが、ぎりぎりインサイダーではないのではないかと。
会社情報だけど、決定事項を洩らしたわけではないので・・・
でもま、それこそIQ180以上のシンクタンクの天才がやっても破産したりしてますから、あれほど甘くはないと思いますけれど。

>とあれこれ考えさせられつつも、楽しくて感動いっぱいのステキな映画だったと思います♪

後味のいい映画はあれこれいっても愛情が涌きますよね♪

Posted by jester at 2007年11月28日 07:42
jesterさん、こんにちは。
そうです。上のコメントは私でした。
無記名でしたのね。ごめんなさい。
お手数おかけしました。

そうそう、株の件は、jesterさんの場合は、インサイダー取引、不法行為にほど近いところが引っかかったんですね。
私の場合はビミョウに違って、犯罪だからうんぬん以前に、大金によって夢や達成感を得るというのが、大人向けドラマとしてはステキに感じられなかったんですよ。
拝金主義社会にうんざりしているもんで。(笑)
なので、スイスの金融ものに対する価値観なんてことを持ち出してしまったのでした。
かみ合わなくてゴメンナサーイ。
Posted by かえる at 2007年11月28日 14:28
かえるさん、度々ありがとうございます〜
いや〜かえるさんかな?と思ったのですが、万が一違う方だと失礼だとおもいまして・・・

>大金によって夢や達成感を得るというのが、大人向けドラマとしてはステキに感じられなかったんですよ。

うんうん、それもありますよ!
最初ええ?これって?と思ってみていたけれど、そこからの展開が私も気になりました。
「お金が夢を叶える」っていうの、ちょっと嫌ですよね。
Posted by jester at 2007年11月28日 16:20
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