2008年04月05日

ノーカントリー NO COUNTRY FOR OLD MEN

country5.jpg

凍てついたノースダコタの一面の雪景色と、荒涼としたテキサスの草原、と舞台は違うとはいえ、コーエン兄弟の「ファーゴ」のセルフリメイクのように感じました。

お金に目がくらみ、人生を狂わせる男たち。
それを醒めた視点で見ている地元の警察官。

「ファーゴ」の味付けがコメディであったのに対し、こちらは「サスペンス」の味付け。

同じ視点から見て、12年経ったアメリカはどう変化しているのか。

コーエン兄弟とはあまり相性が良くないかもと思っているjesterですが、今回の作品はそれにしてはわかりやすかった気がします。
「サスペンス」の作りがしっかりしていて、引き込まれます。

また、丁寧な画面作りは一貫していて、緊張感もあり、作品としての完成度は高く、突き放されたように感じるラストと後味の悪さを差し引いても ☆☆☆3/4 の価値はあったと思います。

でも重すぎて、jesterはまた見たいとは今のところ思いませんけれど。

(ああ〜〜レビューが難しいです。
書いては消し書いては消ししてしまう。)


ところどころに登場する、純朴そうで気のいいアメリカの片田舎の「Old Man」たち。
彼らは、殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)の前に、まるでちっぽけな虫けらのように命をとられていく。

「ファーゴ」ではピーター・ストーメアが演じたグリムスラッドという犯罪者と同じに、シガーも人間の命をとることをなんとも思っていない。
うるさいハエを殺すのと同じ。

そんな犯罪者を追う、「Old Man」の一人がトミー・リー・ジョーンズ。

原題、「NO COUNTRY FOR OLD MEN」はいまや善良なOld Manが住むべき場所はこの国の中にはなくなってきているのだという意味で、この映画のテーマにもなっているといえるでしょう。

コーエン兄弟は「ほら、これが人間の本質の中に存在するものだよ。そしてそれが良心に抑えられることがない人間が、じわじわとウィルスのように増殖しているだろう?」と指摘する。

彼らのように、何も感じずに他人の命を奪えるものは、例えば戦争中なら英雄になれたのかもしれない。

しかしそういう感覚を持ったものが平和な小さな町の片隅にもじわじわと侵入してきているという事実は、こういう形のアルマゲドンもありなのか、なんて思わせます。

他者とのコミュニケーションのなさが、他の人間を人間と知覚せずに危害を加えても、何も感じないことの原因になっているのかもしれません。

何でもパソコンとかテレビゲームのせいにする気はないのですが・・・
それにしても、人間同士のコミュニケーションの不足がこういうものの原因であるとすれば、その一端に、画面を通じてしか人とコミュニケーションをとれなかったり、痛みを伴わず敵を倒すようなゲームを子供のころから好んですることがないとはいえない気がします。

今、現在日本で起こっている犯罪でも似たような感覚を持つ犯人はざらにいますよね。
『誰でもいい、人を殺したかった』『人を殺せと声がした』なんていう動機をニュースで聞くたびに、底知れない恐怖を感じます。

「少年A」この子を生んで……―父と母悔恨の手記 (文春文庫)

先日、神戸児童殺傷事件の親が書いた手記を読んだのですが、ごく普通の家庭環境で、ごく普通に育てたはずの子供でも、まるで悪魔が憑いたように、命を奪っても何も感じないものにそだってしまうことがある。
彼が、逮捕された後も、面会に来た母親に向かって「人間の命もゴキブリの命も同じなんだ」と発言するシーンが恐ろしかったです。

結局どうしてこういう「殺人に無感覚」な人間が育ってしまうのかは、実は親にもわからないのですね。

・・・・と、映画の話とずれてきてしまいましたが、そんな『病んだ現代』(といっても舞台は1980年代ですが)の恐ろしさを見せ付けられた気分がして、見終わったあとはずし〜〜んと重くなりました。


猫殺し屋シガーを演じたハビエル・バルデムは、アカデミー賞の助演男優賞をとりましたが、あれって主演じゃなくて、助演だったの?(爆)
ボンベで至近距離からバス!って死んだ本人も死んだことが判らないような方法も斬新ですごかったけど、なんといってもシガーの存在感が巨大で、確かに得体の知れない不気味さが良く出てました。
「酷い髪型をさせられた」と受賞後のスピーチで文句を言ってましたね。本人も嫌だったんですね、あの髪型。(爆)


リゾートトミー・リー・ジョーンズは、若い頃は信念をもって任務についていたけれど、今は年老いて諦観を持ってきた保安官ベルの役で、ちょっと「逃亡者」の時の刑事が年とったような感じでしたが、彼が主演ということなんでしょうね〜
よろよろしながらも大活躍を最後に見せてくれるのかと思ってましたが・・・・
でも確かに彼のセリフに、いろいろ考えさせられるものがありました。
最後の彼のセリフに救いがあったと見る方もいるみたいですが・・・・、私は救われませんでした。

善良な年寄りが安心して暮らせる国への強い憧憬と希求がテーマにあるのかもしれませんが、それよりも動かしがたい諦観を感じ、カタルシスさえ感じられず、ただ現実の重さがのしかかってきてしまいました。


いろいろ印象的なシーンがありました。
例えば、保安官ベルが、シガーの後を追っていて、シガーの飲み残したミルクを飲むシーンなど。
しかし犯人が飲みかけのミルクを飲んでしまうって、そこにCSI科学捜査班はいないのか?? ・・・という問題じゃないんですけれど。

同じ椅子に座り、ついていないテレビに彼らの影が映りこんでいる画像とか、無機質で冷たい感じがして、とても上手だな〜と思いました。


犬jesterが一番共感したのはルウェリン(ジョシュ・ブローリン)で、まあ臆病なわたくしのことですから、同じ立場になっても、とてもじゃないけどあんなお金を持ち逃げなんかできませんけど、
「早く発信機を窓から投げ捨てて!!」と叫びたくなるし、
「もしあたしだったらお金をどこに隠すだろう」なんて低次元な事をかなり真剣に考えちゃいました。(殴)

どこにでもいそうなおっさん、でも実は「ナム帰りでサバイバル系」というキャスティングが、つい応援したくなるんですね。


コーエン兄弟はアカデミー賞のコメントで「好きなことをやってこれて評価されて嬉しい」みたいなことを言ってましたね。
確かに二人とも、映画作りが好きなんでしょうね。

無駄な音楽を省き、風の音や発信機の音、足音などで緊迫感を守り立てる辺にも彼らの実力を感じました。

jester好みの作品とはいえないけど、それなりにメッセージが伝わってきて、監督は映画作りの愛情があるな〜とは感じました。
posted by jester at 12:59| Comment(12) | TrackBack(8) | な行の映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こちらは今月下旬からです〜。

>原題、「NO COUNTRY FOR OLD MEN」

なんですね〜。
ワタシの頭の中ではこの原題が、何故か「後期高齢者医療制度」にリンクされてしまいます。(爆)
わ〜、ゴメンナサイ!観たらまた来ますね〜?!(逃)
Posted by DD at 2008年04月07日 21:56
DDさん♪ 
いらっしゃいませ〜 ご訪問うれしいです♪

>ワタシの頭の中ではこの原題が、何故か「後期高齢者医療制度」にリンクされてしまいます。(爆)

わははは!!
確かに!
日本もNO COUNTRY FOR OLD MENなのかもしれませんね〜

ご覧になられたら、また感想をお聞かせください♪
Posted by jester at 2008年04月08日 18:23
こんばんはー。
まだこの作品観ていないのですが…(わたしもコーエン作品とはちと相性が…)jesterさんの記事を読んで気になってきました。バルデムのモンスターぶりをチェックしたいです。トミー・リー・ジョーンズもどうなるのか、最後に何を云うのか?
かなり落ちる作品と周りに吹聴されていますので、それなりに覚悟が必要なんでしょうね。
それでは〜。観たらまたおじゃまいたします♪
Posted by リュカ at 2008年04月09日 23:05
おはようでございます♪(ペコリ)

三日と空けず観たくなる映画ではござらぬです、はい。^^;
で〜〜も、映像はドライで強烈にパワフルだと思いません?

>動かしがたい諦観
>カタルシスさえ感じられず
>ただ現実の重さがのしかかってきて

夢も希望も、そんなもん“バスッ!”だよ!ってね^^;
・・・そんな映画を作らせたらコーエンさんたちは一級品。(笑)

「少年A」はかなり前に読みました。
不幸なカタチってほんとさまざまですわよね。
確実に特に若い方々のコミニュケ−ションツールは様変わりで
便利な上に刺激的な情報ばかりに貪欲で、心は常に浮遊していて
その行動は突発的で動機も関連性も希薄と。

私が正真正銘のおババさまになった世の中は、どないになるやろか・・・

あっ、またついついおしゃべりしてしまいました〜(--)^^

Posted by viva jiji at 2008年04月10日 07:20
こんにちは!
私はコーエン兄弟監督の作品をほとんど観たことがないので、普通のサスペンスとしてドキドキしながら鑑賞して・・・途中で肩透かしを食らった気になっちゃいました。
映画に込められているテーマもちっとも理解出来ずに鑑賞を終えました(泣)
皆さんの感想を読ませて頂いて、「これは難解な詩のような映画だったんだなぁ〜」としみじみ思ったりしています(汗)

バルデムは怖かったですね〜普段は素敵な男性なのに、漂い来る狂気が尋常じゃーなくてビビりました・・・
Posted by 由香 at 2008年04月10日 10:13
jesterさん、こんにちは〜
TB&コメントありがとうございます。

>書いては消し書いては消ししてしまう。

嗚呼、何かわかる気がします。
一筋縄ではいかない作品ですよね・・・
ラストも「そこで終わるんかいっっ」と、思いっ切り突き放されたので不安ばかりが積まれていきましたよー

繰り返して見ると、また解釈が変わってくるのかなぁ。そんなことを素朴に思ったので、もう1度観に行こうかと思いつつも。
今月は気になる作品が余りにも多いので、もう行けないかなぁ。
でも、あのテキサスの絶景は大きいスクリーンで見たい気がするんだけど。
Posted by となひょう at 2008年04月10日 20:47
リュカさん、いらっしゃいませ〜 ご訪問&コメント、とってもうれしいです♪ 

>わたしもコーエン作品とはちと相性が…

お好きな方は熱狂的ですが、「ファーゴ」も最初見たときは「ん??」という感じでした・・・
でも今回は、かなりわかりやすく、コーエン兄弟がつくるのはこういうのだ、って判って見ているので、肩透かしも食いません。
やはり相変わらず画面作りとかは上手ですし、のんびりしたところと緊迫したところのアンバランスさが他にはない味わいです。

>バルデムのモンスターぶりをチェックしたいです。

あれはかなり見る価値ありです!

>トミー・リー・ジョーンズもどうなるのか、最後に何を云うのか?

う〜〜ん、こちらはあまり期待しないで(爆)くださいませ。

>それでは〜。観たらまたおじゃまいたします♪

お待ちしてま〜〜す♪
Posted by jester at 2008年04月10日 21:37
viva jijiさん、コメントうれしいです♪ 励みになりますです。ありがとうございます! こちらこそ(ペコリ)でございます♪

>で〜〜も、映像はドライで強烈にパワフルだと思いません?

思いました!!
あの乾ききって力強い映像は素晴らしいですよね〜
内容は救いがないけれど、映画としての完成度は高いと感じました。

>「少年A」はかなり前に読みました。
不幸なカタチってほんとさまざまですわよね。

まあ、普段からあまりテレビはつけないんですが、あの事件の時はニュースであれに関したことが始まると、さっさと消してました。
今は事件からずいぶん経つので、もう大丈夫かなと思い読んでみたのですが、親御さんたちがごく普通の人で「うちの子に限って」とビックリしているように感じられ、誰にでも起こりうる事なのかもしれないと思ったんです。
シガーを見たときは、「このひとは人間を人間と思ってないんだろうな〜」とおもい、この本の事を思い出しました。

>便利な上に刺激的な情報ばかりに貪欲で、心は常に浮遊していてその行動は突発的で動機も関連性も希薄と。

わたしもネットは使うし、とても便利だと思うけれど、やはり本物の人間が前にいない分、関係が希薄ですよね。
その、希薄なところが逆に魅力的ということもあるのかもしれないけれど、これに慣れてしまうとこわいなと思います。

ましてやこれで育ってしまうと、どういう人間になってしまうやら。

例えば小さな単位の街や村で、年齢的にも幅広く、深いコミュニケーションが取れるところでは、たとえ精神的に欠損がある人間でも、周りに支えられて、人間的なあたたかみは育ちやすいと思いますが、そういうものも希薄ですし・・・

>私が正真正銘のおババさまになった世の中は、どないになるやろか・・・

ほんとにしんぱいでごじゃります。
いやわたくしはもう片足をババ世界につっこんでおりますが!

>あっ、またついついおしゃべりしてしまいました〜(--)^^

とんでもない〜〜
とっても嬉しいです♪
またおいでくださいませ!
Posted by jester at 2008年04月10日 21:57
由香さん、いらっしゃいませ〜 ご訪問うれしいです♪ ウエルカム〜〜!

>私はコーエン兄弟監督の作品をほとんど観たことがないので、普通のサスペンスとしてドキドキしながら鑑賞して・・・途中で肩透かしを食らった気になっちゃいました。

そうかもしれませんね〜
え〜〜どうなったの?と最後に疑問をもちますよね。
私はそれなりに覚悟していったので、「今回は割とわかりやすいじゃないの」と思いましたが、それでも最後は「あらら」って感じでした。
対決シーンが全部カットなんですもん。

それに今回は映画はあまり見ないけど、アカデミー賞をとったから見た、という方も多いはず。
そういうかたはトミー・リー・ジョーンズの事はあまり注目してないで、バルデムさんばかり注目してしまうかも。
だとしたら、もっと「はい?」って終わり方だと感じるかもしれませんね〜

>漂い来る狂気が尋常じゃーなくてビビりました・・・

その分、アカデミーのインタビューとかで、大サービスでにこにこしてましたね、バルデムさん。
ほんとはオレはシガーじゃないんだ!!普通は明るくていいやつなんだ!ってアピールしたかったんでしょうね〜〜(爆)
Posted by jester at 2008年04月10日 22:06
となひょうさん、コメント&TBありがとうございます! 嬉しいですわ♪

>ラストも「そこで終わるんかいっっ」と、思いっ切り突き放されたので不安ばかりが積まれていきましたよー

そうそう、きっとそうくるだろうと踏んでいたのに、それでも思いっきり突き放された気分でした。

>繰り返して見ると、また解釈が変わってくるのかなぁ。そんなことを素朴に思ったので、もう1度観に行こうかと思いつつも。

いつも☆☆☆ぐらいの作品だと、もう一回ぐらい見てもいいかなと思うんですが、これはしばらく間を空けないと見られない感じ。(臆病もんなので、今回見るのですら体調を整えてから行きました(汗))

>今月は気になる作品が余りにも多いので、もう行けないかなぁ。

今月も見たい作品が目白押しですね〜

>でも、あのテキサスの絶景は大きいスクリーンで見たい気がするんだけど。

そうそう、それとあの風の音とかも。
音響のいいところで見たいですね、もう一度見るなら。

あの乾燥した草原の感じは、独特の魅力がありますよね。
Posted by jester at 2008年04月10日 22:12
これ、もう一回観たいんです。

なぜかと言うと実は少し心残りなところがあって。

それはラストでトミー・リー・ジョーンズの語りの部分。

この映画で非常に大切なシーンだったはずなんですが、ハビエルのあまりの怖さにどうもそっちに気が取られてて、この語りをしっかり聞けてませんでした。

そうこうするうちに、え?終わり?みたいな感じになっちゃって。次観るときはハビエルの怖さは一応予測できてるから、そのあたりの細かい部分がもっとしっかり見られるかなと思っとりますが・・・。やっぱり怖いでしょうね(笑)。
Posted by nouilles-sautees at 2008年04月14日 23:17
nouilles-sauteesさん、こちらにもコメントありがとうございます!うれしいです♪

>それはラストでトミー・リー・ジョーンズの語りの部分。

あ、わかります!
あそこね、「オヤジが先に行って火をたいていてくれるなら」とかなんとか。
jesterは、一生懸命聞いていたけど、なぜあれが「救い」になるのかがよくわからん。(爆)

>そうこうするうちに、え?終わり?みたいな感じになっちゃって。

ほんとにそうでした。
つか、あまりたいした事は言ってなかったのか・・・も・・・

>次観るときはハビエルの怖さは一応予測できてるから、そのあたりの細かい部分がもっとしっかり見られるかなと思っとりますが・・・。やっぱり怖いでしょうね(笑)。

わたしなんか、首絞めるシーンの顔とかみてないんですよ。
レビューを書いてから、よそのサイトさんで写真を見せていただいて、こんな恐い顔してたんだ!ってぞぞぞときてました。
そういえば、見る前にnouilles-sauteesさんに「私でも見られるでしょうか」とか聞いたりしてましたね。その節はあほな質問によくぞお返事してくださいました。感謝ですわ〜

でも気分的に続けてもう一回はあまり見る気がしなくって。いいなと思ったシーンはあるけど、不快に思うシーンも多かったもんで。
次はDVDですね。わたくしのばあい。

Posted by jester at 2008年04月15日 21:14
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